魚沼市(新潟) あおり山(790m) 2024年3月30日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 4:37 県道入口−−5:44 登山口−−6:17 500m峰−−7:15 主稜線(標高780m)−8:04 954.3m三角点直下−−8:32 スノーシューを脱ぐ(標高780m付近) 8:35ーー8:42 740m鞍部−−8:46 スノーシューをデポ(標高750m付近)−−8:55 あおり山−−8:59 784.9m三角点肩−−9:05 あおり山 9:22−−9:31 740m鞍部−−9:53 スノーシュー装着(標高840m付近) 9:57−−10:25 954.3m三角点峰−−10:50 750m鞍部−−10:54 休憩(標高740m) 11:06−−11:25 500m峰−−11:36 登山口−−12:32 県道入口

場所新潟県魚沼市
年月日2024年3月30日 日帰り
天候曇 → 強風+僅かな小雨 → 曇
山行種類残雪期の藪山
交通手段マイカー
駐車場登山口に続く未除雪の県道入口付近に路側駐車可
登山道の有無県道入口〜954.3m三角点までは車道や登山道があるが、954.3m三角点〜あおり山までは登山道無し
籔の有無954.3m三角点〜816m標高点くらいまでは残雪が使えたが、その先はあおり山まで尾根幅が狭まり、断続的に半分くらい矮小潅木藪が出ていた。境界標識等の人工物が設置されていて思ったよりは藪は薄い。僅かに獣道あり
危険個所の有無あおり山南側の740m鞍部の南側が岩場+灌木の生えた超急斜面。核心部は距離で10m程度。危険個所の下半分は岩場だがホールド、スタンスとも多く比較的安全。岩場の上部の急斜面が核心部で立木や灌木に掴まってクリアした。僅かに獣道あり。技量によっては登り/下りともロープで確保が必要なレベル。このルートの核心部だが、少なくとも昨年アタックした繁松山から登るルートの岩場よりは安全度は高い
冬装備スノーシュー、防寒長靴、ロングスパッツ、ピッケル(無くても可)、10本爪アイゼン(未使用)
山頂の展望東側半分で展望あり。西半分は樹林が邪魔をしている
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コメント腰痛に悩まされながらも昨年のリベンジで「あおり山」に再挑戦。昨年は北側から最短距離で攻めたが岩に阻まれたため、今回は距離は長くなるが安全性が高いと予想される唐松山〜権現堂山の主稜線から残雪を利用して藪を避けて往復した。結果的には大正解で、740m鞍部の南側のみ岩と超急傾斜が登場するが藪を掴んでクリアでき、少なくとも繁松山から登るよりは難易度、リスクとも低い。中子沢集落から登山口までの車道は未除雪でラッセルが必要で、山の中よりも雪質が悪く苦労した。主稜線に到る尾根は雪解けが進んでいるが、登山道の上だけナイフリッジ状の雪が残ってスノーシューのままだと面倒だったが、おそらく来週くらいにはかなり溶けているだろう。主稜線は一部を除いてまだ豊富な残雪に覆われる


あおり山南側の740m鞍部南側の岩場。岩場の上部が今回のルートの核心部で、クライミングに近い傾斜を突破する必要あり


最初は除雪された県道路側に駐車したがその後移動した 登山口に続く県道入口。最初から未除雪
本日の装備。麦わら帽子は無駄だった 林道はデブリが覆う箇所もあったが危険は無かった
小さな橋 大きな溜池。ここだけが凍っていなかった
無雪期の駐車場 尾根西側の雪に埋もれた車道を進む
登山口の標識 標高380m付近
マンサクがあちこちで咲いていた 標高410m付近
標高410m付近から見た上権現堂山〜唐松山の主稜線。今回は954.3m三角点峰までを歩く
古い足跡だが人間のものではない 500m峰直下
500m峰から見た不動滝 不動滝のクローズアップ
500m峰から下り始め。490m鞍部までナイフリッジ化していた 雨のため490m鞍部でカッパを着て麦わら帽子をデポ
490m鞍部から見た500m峰 490m鞍部から見た北側
スノーシューでも時々踏み抜く 標高540m付近。フィックスロープが出ていた
フィックスロープを登ると肩になっていた 641m標高点から北を見ている
641m標高点から見た唐松山方面。弱い雨が降っているがまだガスはかかっていない
標高710m付近 標高740m付近で主稜線に合流。東を見ているがガスあり
750m鞍部。小さな二重山稜になっている 標高800m付近から見た810m峰
標高820m付近。そろそろナイフリッジ帯が終了 標高860m付近
標高900m付近。急斜面 急な区間にはフィックスロープありだが雪の下
954.3m三角点峰の西の肩に到着。本日の最高峰 954.3m三角点峰から見たあおり山に続く尾根
954.3m三角点峰から見た土崩山〜高鼻山の稜線。昨年登った懐かしい場所であるが、あの時より残雪が多いようだ
標高920m付近から見た唐松山、猫岩 標高920m付近から見た権現堂山
標高910m付近の熊棚。多数あった 標高910m付近で尾根が右に屈曲する
熊棚ではなくヤドリギ。近くの木にも見られた 標高870m付近。少しずつ尾根が痩せてきた
標高820m付近。雪の重みで曲がって幹が割れている 標高810m付近の小ピーク
小ピークから見たあおり山。危険地帯があるようには見えない 小ピークを越えるとさらに尾根が痩せて雪が落ちている
スノーシューを脱ぐ。ここでデポすればよかった 古い切り株。人の手が入ったようだ
イワウチワ。まだ花は咲いていない イワウチワの蕾
標高760m付近 標高760m付近から740m鞍部への下りはヤバそうな気配
740m鞍部から南を見ている。岩場と超急斜面を下ってきた 740m鞍部から見たあおりやま
鞍部近くでスノーシューをデポ 標高760m付近
横倒しになった赤い杭。境界標識か? 標高770m付近。尾根西側は藪が薄い
あおり山山頂直下 あおり山山頂。昨年のリベンジが果たせた
あおり山から見た北〜東〜南の展望(クリックで拡大)
784.9m三角点肩に向かうことに 赤い杭とは別の境界標識
784.9m三角点肩 784.9m三角点肩から北に落ちる尾根。この先が岩壁
784.9m三角点肩から見た北〜東〜南の展望
784.9m三角点肩から見た足沢山〜内桧岳の尾根。来週はどれくらい雪が残っているだろうか
あおり山へ戻る あおり山山頂再び
山頂は長靴でも足の甲くらいしか沈まなかった あおり山から見た「こったが山」。廃屋がかろうじて見える
下山開始、と言っても954.3m三角点峰まで登り返しだが 標高780m付近
また別の境界標識。意外と人工物があった 740m鞍部の岩場。ここは簡単でこの上が問題
帰りは尾根右側(西側)から登ることに ここを登ってきた(上から見下ろしている)。写真では傾斜が緩く見える
往路で下った尾根直上の獣道を見下ろす 標高760m付近
標高780m付近。尾根が細くなってからは石が見られる 標高830m付近。完全に藪を抜けた
標高840m付近。ここまでツボ足のまま歩いてみたが踏み抜きあり 標高840m付近でスノーシュー装着
標高910m付近 猫岩は雪が落ちていた
954.3m三角点峰 954.3m三角点が出ていた
954.3m三角点峰から見た360度パノラマ展望(クリックで拡大)
954.3m三角点峰から見た上権現堂山 954.3m三角点峰から下り始めると急斜面が始まる
スノーシューのままなので急斜面はバックで下る 標高830m付近からナイフリッジが始まるがスノーシューのまま通過
雪が割れて夏道が見えている 810m峰から954.3m三角点峰を振り返る
810m峰から西を見ている 750m鞍部
750m鞍部からトラバースして往路の尾根に向かう 往路の尾根に合流して小休止
小休止した場所 標高640m付近から見た641m標高点肩
641m標高点肩から見た唐松山方面
641m標高点肩から見たこれから下る尾根 標高520m付近
500m峰への登り返し 500m峰から見たこれから下る尾根
500m峰から見た上権現堂山〜唐松山の主稜線
登山口到着。ここから長い車道歩き 雪に埋もれた登山口近くの駐車場
主稜線が遠くなった 杉花粉で雪が黄色くなっている(涙)
大きな溜池。水鳥(カモ類)の群れがいた 小さな橋。3箇所あったような
大倉又沢方面に続く林道にかかる橋が左に見える 大倉又沢方面に続く林道
自分のトレースと古いトレース 県道で一番雪解けが進んだ箇所
県道入口にやっと到着。県道のラッセルは疲れた! 下界の道端で見つけた今シーズン初のカタクリ


 「あおり山」は因縁の山である。昨年の残雪期に繁松山の尾根経由でチャレンジしたが、山頂直下の最後の登りが岩場で、どうにか登れてもロープ無しで下るのは不可能と見て撤退したのだった。岩登りの技術を習得してロープを持ってあのルートを再挑戦してもいいのだが、別ルートも面白いだろう。その別ルートの代表格が権現堂山〜唐松山の縦走路のある主稜線から攻める方法。この尾根でも崖マークがあるが、山頂北側のように尾根の両側を挟むような崖マークは無く、尾根の西側だけである。それに地形図を見る限りは尾根幅はそれほど狭いわけではなく、おそらく露骨な崖は無いと予想した。

 この標高だと早く登らないと雪が消えてしまうが、今年は週末に好天が並ぶ日が無く、結局シーズン最初は2週間前のヨモギ山で、次の週は悪天予報の中を比較的短時間で登れる桂山を選択した。今週はやっと土日の両方が晴れの予報でチャンス到来かと思ったら、詳細に予報を見ると日本海側は土曜午前中に雨で、その後回復するが日曜は朝からまた雨の不安定な予報に変わってしまった。しかし今の時期の雨は雪を急激に溶かして藪が出てしまう。予報では魚沼付近は雨が降るか降らないかギリギリの地点であり、降っても大降りはしないだろうと雨覚悟で出かけることに決定した。

 今週も飯山、十日町の国道117号線経由で現地入り。ずっと一般道で片道120km前後を約3時間かけて走る。津南付近が最も多く雪が残っており、北斜面なら道路脇もまだ雪に覆われたままである。十日町に入ると雪はすっかり消えてしまい、国道252号線を北上して旧堀之内で国道17号線に入り、以前に大倉山や明神山、高倉山に登った時に使った旧広神村の県道328号線に入って除雪終点の三ッ又までは入らずに中子沢集落へ。ここから唐松山登山口へ車道が通っていて無雪期に通行したこともあるのだが、そちら方面には人家が無いので今の時期は除雪はされていない。

 赤い大きな橋の手前に県道の看板が出ているが予想通り未除雪。しかし駐車可能な程度の広さは除雪されているので車を道端に置く。まだ真っ暗な時刻であるが雨の降り始めは午前9時前後と予想されたため早めに出て雨が降る前に高度を稼いでしまうことにした。昨夜は薄雲の向こうに月が出ていたが、今日は月も星も全く見えず曇り空のようだ。さて、何時にここに帰ってくるか。雪質に大きく左右されるが、想定では登りで4時間くらい、下りで3時間くらいを見込んでいる。林道歩きが長いし帰りには「あおり山」から主稜線への登り返しがあるので、帰りは思ったよりは時間短縮はできないだろう。

 今日も気温が高く雪は湿って締りがなく出だしからスノーシューが必携の状況。装着し出したところでアイゼンを忘れたことに気付いて車に戻った。まあ、この雪質だとアイゼンよりもスノーシューだろうが、どんな危険な場面があるのか分からないので念には念を入れておくのがいい。林道歩きではピッケルは不要だろうとザックにくくり付けておく。

 県道には意外にも明瞭なスノーシュー跡が残っていてこんな時期に唐松山まで行ったヤツがいるのかと思ったら、道路を外れて畑?の方に続いていてがっかり。しかしLEDライトでは非常に分かりにくいが、よ〜く雪面を見ると僅かに雪面が汚れた丸い跡が点々と続いている。通常、足跡だったら凹んでいたり逆に出っ張っていたりするが、こいつは雪面と同じ高さである。しかし足を乗せると全く沈まないので間違いなく古いトレースであり、これにより大いに労力軽減になった。しかしその形跡は僅かで判別できない場所も多く、そんな箇所ではスノーシューで5cm程度沈む。僅かな深さに思えるが全く沈まないのと比較すると大違いだ。

 このまま唐松山までトレースが続くのかと思いきや、林道が右に分岐する箇所より先ではトレースが全く見られなくなった。主は右の林道に入ったのか、それともここから戻ったのかは不明であるが、この先はいつものように一人ラッセルである。たまに現れるデブリの上だけは良く締まって歩きやすいが、傾斜が急だと滑落しないように注意が必要だ。気温が高く雪が緩いのでデブリの表面が滑りやすく、ピッケルを出して横断した。

 林道の周囲には杉の木が多いが、この時間はまだ花粉はそれほど飛ばしていないようで目薬無しでも悲惨な目には遭わなかった。ただし下山時は飛んでいたようで目が痒くなり、車に到着して真っ先に目薬を差した。杉の木の下の雪はかなり黄色くなっていて、新潟でもスギ花粉飛散のピークを迎えたようだ。

 延々と雪に埋もれた林道歩きが続くが、1時間を過ぎてやっと駐車場に到着。と言っても雪に埋もれて道があることも駐車スペースがあることも分からないが。前に来たことがあるので分かるだけ。近くの木には熊注意の看板があるが、この界隈の熊はもう冬眠から目覚めたであろうか。

 雪に埋もれた溜池を左手に見ながら進んで登山口の標識が登場。ここから尾根に取り付いてやっと本格的な登りが始まる。既に明るくなって空の様子が見えるが、曇っているが隙間からまだ青空が見えている箇所もあり、今すぐに雨が降ることは無さそうだ。今回はまじめな雨具をザックに入れているが、今はザックの底なので天気が怪しくなったら最上部に移動だな。

 登山道にもまだ雪が残っているが、尾根の両側の斜面の雪はかなり減っていた。雪が多い時期ならわざわざ登山道を使わずに適当な別の尾根を使ってもいいのだが、この残雪状況ではもう藪が出ているだろう。登山道があって良かった。当然ながら登山道に先人のトレースは無いので自分のトレースを伸ばしていく。たまに出現する古い足跡は人間のものではなくておそらくカモシカのものだろう。カモシカの足跡は相変わらず多数見られたが、私が冬場のトレーニングで毎週登った鏡台山〜五里ヶ峯よりは少なかった。まだ残雪は多いが尾根のあちこちではマンサクの花が咲いていた。

 この尾根は痩せた区間があって登山道上の残雪がナイフリッジになった箇所も登場。スノーシューでなければてっぺんを簡単に通過できるのだが、スノーシューを脱ぐのが面倒でそのまま通過するので不安定。こんなところで滑落しては物笑いの種になってしまうのでピッケル併用で慎重に渡った。登りはまだいいが下りのナイフリッジはスノーシューは特に不向きだ。

 500m峰を越えるとポツリポツリと雨粒が落ちてきたがごく少ないので半分無視。しかしいつ雨が強まるか分からないのでザックをかき回して雨具を最上部に移動してザックカバーをかける。少し前から西寄りの風が強まり雲が厚くなっていた。ラジオの天気予報によると日本海を前線が通過中とのことで、その末端付近がこの辺りらしい。

 500m峰を越えた490m鞍部で雨が少し強まってきたので上だけカッパを着用。ついでに防風対策を兼ねる。今週は水曜日に散髪して頭と首周りが寒いためバラクラバを使っているが、こいつは毛糸製で風が抜けるため、風を通さないカッパのフードと組み合わせると都合がいい。手袋は防寒防水タイプなので雨が降っても問題なし。まあ、できれば雨は降って欲しくないけど。カッパに着替えると同時にザックにくくりつけていた麦藁帽子はデポすることに。この辺りでもお昼以降は好天予報であり、今年初の麦藁帽子の出番があるかと思っていたが、残念ながら今回は出番は無さそうだ。

 なおも高度を上げていくが主稜線の山並みがガスに覆われて見えなくなってしまった。視界が悪くなって「あおり山」へ続く尾根の先の様子が見えなくなるとリスクが高まるのでちょっと心配だ。それよりも雨が強まる方がもっと心配であるが。しかし、予想に反して雨はこれ以上降ることはなく、短時間で落ちてこなくなった。でも風は強いままでブナの森がゴーゴー鳴って気味が悪い。気圧配置からして強風は予想していたが、北アルプスの標高3000mの稜線ではなく1000m以下なので爆風はない。昨年の北アでは一番強い風では体が登山道から押し出されるほどだったが、今回は体感的に寒いだけで行動に支障は全く無かった。風速にすればおそらく10m/s程度であろう。

 何も考えずに尾根を直登していたら、いつの間にか後ろに大きな山並みが見えるようになった。そうだ、この登山道は上権現堂山に続くような形で主稜線に合流するのであった。合流前に740m鞍部へトラバースするのがお得だったのだが残念。帰りはそのようなルート取りをした。

 主稜線上の「あおり山」の分岐点は954.3m三角点峰であり、そこまでは主稜線を東へ上がっていく。740m鞍部へ下ると小規模な二重山稜で中央部は凹んでいた。テント場に使えば風除けにちょうどいいが、凹んだ場所だと冷気が底に溜まって周囲より寒いのが難点だ。

 このままブナ林が広がる広い尾根が続くのかと思ったらそんなことはなく、810m峰を越えて800m鞍部付近までは尾根が痩せてナイフリッジ状に雪が残った稜線が続く。南側の雪が切れ落ちて斜度が強い北斜面が残った形状で、「歯」の真上を歩いたり左斜面を歩いたりしたが、こんな場面もスノーシューが苦手とするシチュエーションである。雪が締まってスノーシューの食い付きが良ければ傾斜が強くても歩きやすいのだが、今は雪が緩んで表面が滑り、スノーシューのように雪の沈みが浅いと余計に滑りやすい。ツボ足の方が楽に歩けるのだが、ここでスノーシューを脱いでも痩せ尾根地帯が終わればどうせまた使うことになるので、スノーシューのまま我慢して歩いた。こんな場面ではピッケルが役立つが、スノーシューが使いにくい場面で無理にスノーシューを使わなければピッケルは不要だっただろう。

 やっと痩せ尾根地帯が終わって尾根が太くなると同時に発達したブナ林が復活。歩きやすくなるが標高860m付近から上は尾根が広いまま傾斜がきつくなる。こりゃ下りではスノーシューは使えないなと考えつつも、登りなら問題ないので直線的に一気に高度を上げていく。幸いにしてここは比較的雪が硬くて沈みが少なく、ズルズル滑ることもなかったので歩きやすかった。ただし、傾斜の分だけ体力は使うので呼吸が激しくなって苦しい。ごく一部の土が出た箇所ではフィックスロープが見えていた。

 「激登り」が終わって傾斜が緩むと954.3m三角点峰の西の肩に乗り上げた。てっぺんはもう少し先だが「あおり山」への尾根分岐はここなのでここで主稜線を離れて左へ。いつの間にか稜線に掛かっていたガスが晴れて尾根の先が見通せるようになっていたが、分厚い雲が垂れ込めていつまた雨が落ちてくるのか分からず、相変わらず風は強い。天気悪化のピークを過ぎていればいいのだが。

 ここから見る「あおり山」への尾根は幅が広くてブナに覆われて残雪が豊富で、危険地帯の気配は皆無で藪漕ぎの心配も無さそうである。ただし尾根が高度を落としながら右に左に僅かに屈曲しているので、尾根の全容が見えるわけではなく「あおり山」も見えなかった。地形図では「あおり山」に近い位置で崖マークが登場するので、危険地帯がある可能性がある場所がここからでは丸々見えていないことになる。こればかりは先に進まないと分からないので、このまま下り始める。

 下りでは帰りの登り返しを考慮して歩幅を極端に狭めてトレースを付けていく。歩幅が合わないトレースは体力を余分に使うため、登りの歩幅に合わせておくのだ。感覚的には下りでは登りの2〜3倍の歩幅であり、下りで半分以下の歩幅で歩くとスピードが激減して時間がかかってもどかしいが、苦しい帰りの登り返しで楽をするためなら仕方ない。

 標高910m付近で尾根が右へ屈曲する地点でやっと「あおり山」山頂が見えたが、南側から見ると雪が乗った丸く穏やかそうな山頂であった。しかしそこに繋がる尾根は、740m鞍部付近がまだ見えていない。そこへ下っていく尾根は少し尾根幅が狭まって鋭い雪のピークが見えているが、スノーシューのままで突っ込める状況なのかはまだ分からない。

 更に下ると尾根幅が狭くなってきて傾斜も出てきたが、まだブナ林が続くので危険地帯ではない。そして標高780m付近で「あおり山」に続く尾根の全容がようやく見えたが、鞍部付近はブナ林ではなく緑色の針葉樹や背の低い潅木藪が覆っているのが分かる。ただし明らかな岩場は見当たらず、尾根上や尾根の東側には残雪が結構多く、極端な痩せ尾根は無いらしく一安心だ。

 標高810m付近からは尾根幅が狭まって残雪が落ちてしまって潅木藪が出ている箇所が登場。最初の藪はスノーシューのまま突破したが、その後は藪の頻度が増えそうな気配でスノーシューは脱いでザックの背中へ括り付ける。上からザックカバーをかけているので藪に引っかかりにくいだろう。地形図どおりに尾根の西側の傾斜が急で西側には雪は皆無で、雪が残っている箇所では尾根の東側だけであった。ツボ足でも思ったよりも雪は沈まず、長靴で概ね足首程度で踏み抜きも少なかった。林道ではスノーシューで足首まで潜ったのとは対照的だ。特に先週はラッセルが深かったが、あの時の新雪は今週の雨で溶けてしまって、今残っているのは古い雪なのだろう。これが全く沈まなくなれば残雪期らしい快適な歩きが楽しめるのだが、予報によると今週以降は気温が高めで推移するとのことで、そんな場面が無いままに雪が消えてしまうかも。

 雪が落ちた潅木藪帯は2週間前の上ノ山の藪とは違って根曲がりではなくまっすぐで幹は極端に細く、尾根直上であれば割と簡単に分けることができた。また、古い切り株も見られて本格的ではないにしろ人の手が入ったことがあるのは間違いなかった。境界標石が数箇所で見られたのと関係があるかもしれない。また、雪が消えた箇所では尾根直上西側直下を中心に獣道が見られた。これらのおかげで藪地帯の方が雪の上をラッセルするよりも楽に歩けた気がする。

 このまま順調に山頂に到達できるかと思いきや、740m鞍部の直上でやばい気配が。潅木藪を通してなのではっきりとは見えないが、どうも鞍部に下る直前が急激に落ち込んでいるように見える。まさかここまで来て撤退なんて悪夢はごめんだと思いつつ下っていくと、確かに鞍部に下りる本当に最後の場所だけがこれまでとは比較にならない急傾斜であった。ただし岩が出ているわけではなく、土とこれまで以上に矮小な潅木が付いていた。これはロープ無しで下れるかなぁと心配になったが、よ〜く斜面を見るとルートが見えてきた。というか獣道らしき筋が尾根上に続いているのだった。その下が岩場らしく見えるが、ここから見下ろすと逆に岩場の方がルートが明瞭で下りやすそうに見える。

 ここを下れるならば登りの方が簡単なので帰りは問題ないだろうし、おそらくここが最後の関門だろう。バックに向きを変えて潅木を掴みながら足の置き場を慎重に決めてピッケルも併用して下っていが、ピッケルは逆に邪魔だったかも。ここではピッケルよりもアイゼンで足元を確保する方が安全性が高いかも知れない。超急傾斜区間は距離にして10mくらいで、こんな場面に慣れていない人は下りでロープをフィックスしてこれで下り、登りでもロープを使うのがいいだろう。

 土と潅木の危険地帯を下ると岩場が登場するが、見下ろした時の感想どおりにこちらは傾斜があってもデコボコが多くて手がかり、足がかりが豊富で下りでも簡単に通過できた。これで危険地帯は完全に突破した。岩場の基部には大きな木が2本、立っていていい目印になるだろう。

 最低鞍部までスノーシューを背負ったまま歩いたが、ここまでで雪がある区間でもツボ足でも思ったよりも雪に沈まないことが判明し、この先も半分以上は藪が出た区間だと予想され、スノーシューが無くても大きな支障は無いと判断してスノーシューをデポすることに。痩せた尾根なので帰りに見落とす心配は無い。スノーシューが無くなると背中がかなり軽くなった。今、ザックに入っている主要物は防寒装備と軽い10本爪アイゼンくらいなので、おそらく重さは半減だろう。私のスノーシューは両足で2.3kgくらいあったはずだ。

 鞍部から登り返しにかかるともう危険地帯は無いが、山頂までの半分くらいの区間が雪が切れて矮小な灌木藪が出ているが、鞍部南側の灌木藪同様に藪漕ぎと表現するほどの濃さではなく、半端に潜る雪の上を歩くよりも藪の中を歩いた方が楽なほどであった。なお、尾根の直上よりも直上西側直下の方が藪が薄く、獣道はそちらに付いていた。この植生は繁松山から続く尾根と同様であった。

 山頂に至る途中で横倒しになった赤い杭を発見。おそらく境界標識だろう。切り株があったが境界標識設置時に切り開いたものかもしれない。

 山頂直下で尾根幅が広がると雪が連続するようになり、ツボ足で足首程度まで潜りながら進んで「あおり山」山頂に到着した。地形図ではこの北側の784.9m三角点が具体的な標高が書かれた場所であるが、三角点は最高点に設置されているわけではなく、最高点は南側の790m等高線に囲まれたピーク、つまり今いる場所である。これで昨年来の宿題が片付いたわけだ。山頂は丸く広く雪原になっていて、西側に灌木が立ち並んでいるが山頂標識や目印の類は一切無かった。繁松山側からアプローチすると崖が登場するが、山頂からではそんな崖があるとは全く感じられない。それもそうで傾斜が急になるのはここの北側の784.9m三角点肩の北側であり、山頂からは見ることはできない。

 今日は低い雲が垂れ込めて遠望は効かないが、山頂からは立木が邪魔になる西半分以外の方向の近場の展望は良好で、特に松川川を挟んだ反対側(東側)の尾根が良く見えており、昨年登った高鼻山〜土崩山、魚止山にかけての稜線が懐かしい。あそこを歩いたのは1年前のほぼ同じ時期であるが、今年は明らかに昨年よりも残雪が多い。今年だったらもう少し藪漕ぎが楽になったことだろう。昨年より多いとは言え、稜線から西に落ちる尾根の雪はほとんど溶けてしまっていて、稜線へのアプローチは私が使った送電線巡視路しか無さそうだ。

 その右奥には霞んでいるが尖ったピークの桧岳が目立った存在であり、左に続く稜線は足沢山である。そこから手前に延びる黒が目立つ尾根は内桧岳で私にとっては未踏峰。これは来週計画している山だが、足沢山〜毛猛山の稜線を離れたら藪漕ぎかな。例年通りだと4月1日から国道252号線の除雪が始まって、週末には尾根取り付き付近まで除雪が達しているはずだ。長い国道歩きのラッセルが無くなるのは非常に大きいメリットである。

 せっかくここまできたのだからと空身になって784.9m三角点肩まで足を延ばすことにした。ここでも半分くらいは藪が出ていたが薄くて大きな障害にはならなかった。そして赤い杭とは別の種類、黄色い頭の樹脂製の境界標識らしい杭が刺さっていた。

 山頂から難なく784.9m三角点肩に到着。こちらも山頂同様にたっぷりの雪が付いたままなので三角点は全く見当たらないし、ピッケルを使って探すのも不可能だろう。ここからではまだ北の崖は見えないが、もうここまで来れば満足だ。昨年のルートよりはずっと距離が長くラッセルもきつかったが、今回のルートは安全度は格段に高かった。

 山頂に戻って休憩。帰りは954.3m三角点峰までの登り返しや林道の疲れる雪質のラッセルが待ち構えているので、さすがに無休憩でこのまま歩き続けるのは無理である。持ってきたパンを齧って腹を満たし、これからの藪漕ぎとラッセルに必要なエネルギーを補給した。いつもなら疲労回復に効果が期待できるビタミンB系のサプリメントを飲むのだが、冬場の鏡台山〜五里ヶ峯のトレーニングでは無休憩で歩き続けて飲み食いしなかったので、そのままサプリを持たない状況が続いてしまった。ちなみに今話題の「紅麹」を含んだものではない(笑)

 休憩を終えて下山開始。740m鞍部手前でスノーシューを回収して背中が重くなってから、鞍部南側の岩場へ突入。大きな木の裏側の岩場を登ったら往路ではそのまままっすぐの尾根を下ったが、帰りは掴みやすい灌木がより多い右手の急斜面を登ってみた。こちらの方が足場も良くて登りやすかったが尾根直下の斜度だけは半端なく、ここも灌木に掴まってクリアした。当然ながらここを下るよりは登りの方が簡単である。

 しばらくは雪を避けて灌木の尾根を上がっていき、816m標高点付近で藪が消えて雪が連続するようになったが、長靴のままでも概ね足首程度しか沈まなかったのでそのままツボ足で進んだが、高度が上がるとズボっと踏み抜く回数が増えて疲れたので、標高840m付近でスノーシューを装着。足先は重くなったが雪への沈み込みが格段に浅くなったので、とても歩きやすくなった。しかしこの程度の雪質なら重いスノーシューではなく軽いワカンで良かったなぁ。

 さすがに帰りの登り返しは体力的にも精神的にも厳しいが、天候は回復傾向らしく雨は止んでいるし強風も収まった。ただし低い雲が垂れ込めたままで晴れる気配はない。まあ、この標高だと快晴になると暑すぎて汗をかかされることになるだろうけど。

 954.3m三角点峰まで登り返し、せっかくだからと三角点まで足を延ばすことに。幸いにして三角点の位置は知っていて、そこには雪が無く三角点が見えている。東に僅かに登って平らになると、稜線上の堤防のような雪の列の南側に三角点が出ていた。ここが今回で最も標高が高い場所で、立木が皆無で展望も最高であった。しかし今日の天気では近くの山しか見えないのが残念だ。

 ここから登山口までは小さな登り返しがあっても基本的には下り一辺倒で、これまでよりはずっと楽になる。出出しはスノーシューにとっては急傾斜で前を向いて下るのは不可能であり、後ろ向きになって下るが雪が柔らかいので時々滑った。こんな時にピッケルが役立つが、素直にスノーシューを脱いでツボ足で下ればピッケルの出番は無いだろう。

 810m峰への登り返しでナイフリッジに変わるが、ここも履き替えるのが面倒なので場に不適当なスノーシューのまま強引に突破する。750m鞍部では左斜面にトラバースして往路の尾根に合流したが、斜面は厚い雪に覆われていたので灌木藪は完全に雪の下で容易に歩けた。

 往路の自分のトレースがある尾根に乗ったところで短時間の休憩で、残ったパンを食う。出発して尾根を下っていき490m鞍部でデポした麦わら帽子を回収。今も太陽は全く見えないままであり、麦わら帽子の出番は無かった。ナイフリッジをスノーシューのまま通過して500m峰を越えて再び歩きやすい雪を下っていき、登山口に到着。

 この先は傾斜が緩いか水平の車道歩きだが、いかんせん尾根上よりも雪質が悪くてスノーシューでも足首まで沈むので疲れる。往路の自分の足跡があるのである程度ラッセルは軽減されるが、自分の足跡に乗っても少し沈むし水平でない場所では往路と歩幅が合わないのでやっぱり疲れるのであった。車道歩きは長くて精神的にも疲れた。

 大倉又沢が合流すると車道は右へ曲がり、左手の沢の幅が広がって水量も多くなる。沢の対岸の斜面が切れて羽根川沿いに出ればゴールは近いが、相変わらず雪が続いて疲れる歩きのままだ。

 やっと車道起点に到着。今日は今シーズンで最長の行動時間だったこともあり、今シーズンで最も疲れた。無雪期の鹿島槍日帰りよりも疲れた! 雪のあるシーズンは装備が重いし、登山靴の倍以上の重さがある防寒長靴だったことも疲労の要因であろう。片付けと着替えをして車に乗り込み、周囲に杉が無い場所まで移動して本格的に休憩。合間に車載用ノートPCで記録を作成。気温は+8℃で低めであり、低温に弱い私のノートPCが正常に起動するには多少の時間がかかった。


まとめ

 今回のルートは長くて時間がかかるが、繁松側の尾根経由で登ったときに登場したレベルの崖は無いため、難易度は低くなることが分かった。ただし、危険個所が全く無いわけではなく、個人のレベルによっては740m鞍部南側の通過にはロープがあった方がいいだろう。あおり山は非常にマイナーな山で登る人はほとんどいないだろうが、もし残雪期に唐松山に登る機会があるようなら併せて登るのもいいだろう。

 

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